洋画家・難波田龍起（1905年8月13日北海道旭川市生～1997年11月8日没）は、詩人的感性を背景に独自の抽象絵画を確立した作家である。幼少期に東京へ移り、高村光太郎のアトリエ近くで育ち、関東大震災後には夜警を通じて光太郎と知己となり、詩作を携えて訪れる関係が続いた。その後、川島理一郎に紹介され「金曜会」に参加し、太平洋画会研究所や本郷絵画研究所で学び、松本竣介・鶴岡政男らと交流した。初期は古代ギリシャ・ローマへの憧憬を示す作品を描いたが、戦後は自律的な抽象化へと進み、幾何学的構成による叙情的な抽象作品を制作、さらに無数の鋭くしなやかな線が交錯する表現へ発展し、60年代にはドロッピング技法を取り入れ、「コンポジション」（1965、東京国立近代美術館）に代表される独特の抽象絵画を生み出した。70年代以降は青や茶を基調にした意志的な線の構成が特徴となり、静謐で奥行きある情感を宿す作風へと展開した。57年には北海道立近代美術館で初の本格的回顧展「形象の詩人　難波田龍起展」、62年には東京国立近代美術館で「今日の作家　難波田龍起展」が開催され、新作「原初的風景」シリーズも発表し、翌年に第29回毎日芸術賞を受賞、平成8年には文化功労者に選ばれた。晩年まで抽象表現への一貫した思考と叙情性を貫き、純度の高い作品を数多く残した。