戦前からの古参メーカー、白山電機通信工業を前身とする帝国電波研究所(株)。
カーステレオで有名な「クラリオン」は、戦後1946年から使用される由緒正しいブランドネームです。
この受信機最大の特徴は、同調機構に「高周波一段ミュー同調器」を用いていることです。
一般の受信機で用いる、コイル、バリコンの組み合わせは、本機にはありません。
機構的には、空芯コイルの中でフェライトコアを移動させることによって、インダクタンスを可変させる仕組みであり、
プッシュボタンとの相性が良いことから、かつてはカーラジオの選局部に必須のシステムでした。
本機では、「タンジェントスクリュー方式」によって、μ同調器を通常一般のダイアル運針機構で運用するあたり、
メカニズム好きには堪えられない仕組みになっています。
この同調器の復元には相当なウェイトを割きましたが、一方でシャシー内部の修復は驚くほど手間いらずでした。
配線材料が非常に良質で、カラーコードが採用されていること。
半田合金が非常に柔らかく、作業が捗ること。
電源フィルターチョークトランス装備であり、ハム対策強化の必要がないこと。
大型シャシーで、何といっても見通しが良いこと。
いろいろ美点が多かったことが思い出されます。
帝国電波の「造り方」には現代のエンジニアリングに通じるものが感じられます。
キャビネットはどうだったでしょうか。
オリジナルのソリッドな濃茶は、重厚すぎて、筐体の深すぎる奥行までも強調してしまいます。
壮麗なフェイシアと相性の良い、重厚すぎない華麗なトーンを求めてみましたら、行き着いたのが「赤」でございました。
大変難しい色です。嫌らしくなく、どこまで赤に出来るか?
異なる材質をもつフロントのヘリンボーン突板と、白木の天板、側板を濃淡なく等しく染めたい。
色むらなく染めるのには、どんな塗材を使うか?
色々テストして調色した結果がご覧のさまです。
うまくいったと思います。見た目の奥行も若干浅く感じられるようになりました。
遠距離受信が苦も無くできるのは、やはり高一6球スーパー、極微電界0.02mV/mは伊達ではありません。
5球スーパーの微電界0.1mV/mに対して5倍の感度を有するからです。
工房のある兵庫県山間部にて昼間、文化放送。沖縄の交通情報には驚かされました。
筐体内設置のキャパシティアンテナだけで相当DXが効きますが、必要に応じてリード線を付加してください。
このμ同調器は、セルロイドのカバーに護られて、70年経っても当時のまま高いQが保たれているようです。
民放が残っている今こそ、この受信機を手にして、良く調整されたμ同調器付高周波1段増幅のST管スーパーが
どのような物だったのか、是非お確かめください。
サイズは横51cm 奥行き24cm 高さ30cm です。
クラリオンは、1948年日本初のカーラジオを開発し、1951年自動車メーカー純正市場に参入します。
その後、経営判断により、レッドオーシャンであった家庭用ラジオ事業を一切やめてしまいます。
1963年、日本初のカーステレオ開発は、そうした選択と集中で成し得た業績に違いありません。
それにしても、クラリオンが社業の全てを車載音響事業に全振りするずっと以前に、
ST管セットに自家薬籠中の高1ミュー同調器を組み込んで、最高性能の家庭用ラジオを完成させていたことは、
私達ヴィンテージラジオファンの記憶によく留めておくべきと思います。