1990年代にコノフィツムへ統合されるまで一属一種のマイナーメセンであったヘレアンサス・メイエリ、和名を翼(つばさ)と言います。
今では決して珍しがられる種でもありませんが、我々が巷で目にする翼は本物の翼では無いのだという、ある翁の情熱を私の拙文を通して皆さまにシェアさせていただきます。
信州小諸には日本で最もメセン類をやり込まれたであろう翁がおられます。彼より詳しい人がいるとすればそれは皆あの世でしょう。
6年程前の勉強会のお題に画像1〜3枚目の株をお持ちになって、実生20年これぞ本物のメイエリ/翼だと仰います。
掲げられたその鉢を見て、私はもちろん誰にも違いが分かりません。
〇〇さんおかしなこと言い出して… これどこが違うんです?と質問が入ると、
両腕を真っすぐVの字に挙げて、これは巷の翼もどき。本物はこう!と、今度はバタフライのように湾曲させて身体を使って示してくれます。
腕の曲がりが違うのは分かるものの、メイエリの違いとしてさっぱり理解が出来ない私が再度せがむと、
画像4枚目、腕をぶるんぶるん回しながらふたつの違いを繰り返し披露してくれるです。
もはやメイエリの違いよりも、この高齢で良く肩が回って素晴らしいなとそちらの方に感心しながらじいさまの体操を凝視していると、
『ん〜 あなたは本当に熱心だね! メイエリを知ろうという情熱があるね!』
みたいなことを仰って、
え?
『そうかわかった! 私はもう歳だ。この鉢も20年作ってこの先は荷重だ。あなたに託そう!』
なんてことになって、
ぇえ??
いやいや ムリです無理ですとんでもない。
正直私はこの類は興味薄めで、こんな古くて珍しい?木を引き継いで育てるのはプレッシャーなのです。
しかし場内はすっかり感動のバトンタッチみたいな雰囲気が出来上がって、あれよあれよと翁から(依然として2つの違いが分からないままの)私へ鉢植えの授与がなされ、そうするとおもむろに、
『それじゃぁ… これ〇〇円な!』と、キリっとした目の翁。
ぇえええ!??
これこの流れでお金掛かるやつだったんかい! ○○さんは最近ぼけ気味じゃない?なんて話まであったのに、全く以てしっかり(かっちり?)しておられ、結果、たった今までの感動と幾人かの英世が瞬時に消え失せ、替わりに想定外の緊張感を持ち帰ることになったのです。
翁のボディランゲージを意訳しますと、巷の翼はいわゆる足袋型のコノフィツムと同様のスタイルで、上から見た時ボディの先端は(前後に対して)ちょうど中間にあり、シンメトリに膨らんでいますが、本物は先端が片側に寄っていて片方がラウンドしながら膨らんでいます。
この前後非対称な膨らみ方によりボディそのものが翼のようにも見え、また、羽ばたく鳥を上から見たシルエットにも見えます。
それこそが翼の和名を授かった理由であり、この種を特徴づける姿なのだということです。
そして、その産地はUmdaus(ウムダウス)であることが重要とのことです。この産地の個体はそのような特徴的な姿を見せると仰います。
今回改めて検索してみますと、ネットなどで見られるこの種の姿はほぼ全てがシンメトリのVの字で、そんな中、極めて精通されている愛好家さんが、Umdaus産の情報と共に掲載されている個体の画像では、まさに羽ばたいているかの様なメイエリが見られます。
"Umdaus"は多肉書籍の出版社の名前などで良く目にするものの、実際どこにあるのかGoogleマップにも載っていない地名ですが、これは南ア/北ケープ州のスタインコップのさらに上(北部)のオレンジ川に近い地域(Wyepoort Valley)がウマダウスとされます。
ここで注意点としまして、他の産地の個体やシンメトリのメイエリが、別種であるとか、純粋でないとか、そういう意味では無いということです。
あくまで、この種が古くに日本に入って、先人に容姿を吟味されて、日本特有の文化である和名を与えられた個体がそのタイプ(容姿)であり、それが現在は稀有になってしまったので、そういうものこそを”翼”と呼んで愛でることに一定の意義があるということです。
(この種には、古い愛好家(故人)の名を冠したものや、別途二つ名を授かった選抜個体などもかつて存在したと聞きます)
改めて出品画像をご覧ください。
画像1〜3枚目、翁が20年近く育て、私が引き継いで6年ほど経過した実生25年の株です。正に"翼"の姿をしています。
現在は群生ですが私が預かった時は2頭株で、実生20年で僅か2頭とはどういうことかと疑いましたが、歴戦の古札にしっかり年月日が記してありました。
私はその後自家受粉させて1度だけ実生し、それを5年育てたものが画像9〜10枚目の2.5号鉢です。
5年でこのサイズは全くもってお恥ずかし限りですが、これは植え替えをさぼっていただめで、20年で2頭の翁もどっこいどっこいかと思います。
(今期植え替えましたら急な成長に肌が追いつかず身割れしています)
出品株は翁の株現物を26年越しに初めて分けたカット苗1本(画像5〜8枚目)に、私が実生した2.5号鉢を加えてセットとします。
(ちなみに2.5号株は今の所全然翼の形をしていません。種が群馬産だからですかね。笑)
さて、繰り越し2日もかけてこんな長文を書きまして、それを延々ここまで読んでくださったあなた様、
『ん〜 あなたは本当に熱心ですね! メイエリを知ろうという情熱がありますね!』
そうです。あなたのことです。
『わかりました! 私だけでこの貴重な古木を育てるのは荷重です。 あなたに託しましょう!』
それではお好きな価格でご入札いただけますと幸いです。